1. はじめに

医療現場でAI（人工知能＝データから傾向を学ぶ仕組み）を活用したいと思っても、最初に直面するのは「環境構築」という壁です。専門的な単語が並ぶと難しく感じますが、手順を追えば誰でも整えることができます。本記事では、MacBookを使ってAIの基盤を整える方法をMiniconda（ミニコンダ）というツールを中心に解説します。Minicondaは軽量で扱いやすく、複数のプロジェクトを並行して進めても環境が壊れにくいため、初心者に最適です。ここではAIモデルの構築に入る前段階、「道具を揃える」ところまでをゴールにします。

2. Minicondaとは何か

AIで広く使われるプログラミング言語Python（パイソン）は便利ですが、関連ライブラリの数が非常に多く、組み合わせによっては互換性の問題が起こります。あるプロジェクトで使う設定が別のプロジェクトに影響してしまい、「昨日動いていたのに今日は動かない」といったトラブルも珍しくありません。

この問題を解決するのがMinicondaです。Minicondaを使うと、プロジェクトごとに「仮想環境」を作り、その中に必要なライブラリだけを入れて管理できます。たとえば「乳がんデータ解析プロジェクト」と「眼科画像解析プロジェクト」でそれぞれ環境を作れば、互いに干渉することなく進められます。環境が壊れても削除して作り直すだけなので、安心して試行錯誤できます。

3. Minicondaのインストール

まずはMinicondaの公式サイトにアクセスし、自分のMacに合ったインストーラーをダウンロードします。

Appleシリコン（M1/M2/M3/M4など）搭載のMac → 「Apple Silicon版」
Intel搭載のMac → 「Intel版」

ダウンロードしたファイルを開き、画面の指示に従って進めればインストール完了です。特別な設定は不要で、基本的に「Next」を押すだけで進められます。

次に、Macの「アプリケーション」からターミナルというアプリを開きます。黒い画面に文字を入力して操作する道具で、これから環境構築の操作を行う場所です。

ターミナルが開いたら、以下を入力して動作確認をします。

conda --version

エンターを押してバージョン番号が表示されれば成功です。もし「command not found」と表示された場合は、一度ターミナルを閉じて再度開くか、Macを再起動してください。環境変数が反映されていないだけで、多くの場合これで解決します。

4. 仮想環境の作成

次はプロジェクトごとの作業場所となる仮想環境を作ります。これによって失敗してもほかの作業に影響が出ません。以下を入力してください。

conda create -n ai-env python=3.11

ここで「ai-env」が環境の名前です。わかりやすく「breast-cancer」や「retina-analysis」としても構いません。Pythonのバージョンは安定している3.11を指定しました。実行すると「Proceed ([y]/n)?」と聞かれるので、y を押せば数分で環境が作成されます。

作成が終わったら次のコマンドで環境を有効化します。

conda activate ai-env

ターミナルの表示が (ai-env) のように変われば、その環境の中に入ったことを意味します。以後の作業はすべてこの環境内で行われ、他の環境には影響しません。

5. 必要ライブラリのインストール

仮想環境を作ったら、AIの基礎に必要なライブラリを導入します。まずは次の3つを入れましょう。

pandas（パンダス）：表形式のデータを扱うライブラリ
scikit-learn（サイキットラーン）：機械学習アルゴリズムを利用できるライブラリ
jupyter（ジュピター）：ブラウザ上でコードを書いて実行できる環境

インストールは以下のコマンドで一括して行えます。

conda install pandas scikit-learn jupyter

数分で完了し、環境内にライブラリが揃います。確認のため、次を入力してください。

python -c "import pandas, sklearn; print('OK')"

「OK」と表示されれば導入成功です。

6. Notebookの起動

コードを書く場所として便利なのがJupyter Notebookです。ターミナルで次を入力してください。

jupyter notebook

するとブラウザが立ち上がり、白い画面に「New」ボタンが表示されます。ここで「Python 3」を選べば、新しいノートが開きます。このノートはコードを1行ずつ実行でき、テキストでメモを残せるため、医療現場での小規模な解析や記録に非常に適しています。たとえば、患者背景をテキストで書き、そのすぐ下に解析コードを配置して実行する、といった使い方ができます。

7. 最後に

ここまでで、Mac上にAIを試すための環境を整える準備が完了しました。専門用語が多く難しそうに見えたかもしれませんが、実際にはターミナルに数行入力するだけで始められます。

次のステップは、Notebook上で公開されている医療データを読み込み、簡単な解析や予測を試すことです。ただし大切なのは「まず一歩を踏み出す」ことです。環境さえ整えば、あとは少しずつ学びを積み重ねることで、日常業務を改善するAI活用につなげられます。